3−1 品質について この節では、工数低減活動において品質をどう考えるべきか、 また、品質を確保するための活動と工数低減とは、どんな関係にあるかなどについて説明する。 この場合、設計品質よりは製造品質が主として対象になる。 したがって、ここでは特別な場合を除いて、品質とは製造品質を意味することにする。 3−2 品質は工程で作り込む 自動車産業に携わっているわれわれは、顧客にトラブルフリーな車を提供することが使命である。 そのためには、設計品質どおりの品物を生産することが必要であり、ここに品質に関するチェックの必要性が生ずる。 従来は、出来上がった物は検査工により検査され、後工程へ流されているが、出来てしまったものを、 いくら良し悪しの判定をしたところで、決して良い品質のものを造ることにはならない。 また、検査工が、抜き取り検査をして、良品とされたとしても、何千個に1個の不良があったならば、 顧客の立場からすてば、何千台に1台だから仕方がない、ということにはけっしてならない。 すべての製品が何らかの形で全数チェックがされなければならない。 ここに、専任の検査工をなくし、「工程で造り込む」という考え方が生まれてくるのである。 「工程で造り込む」という考え方は、作業者一人一人が責任を持って、 工程内の一つの作業ごとに完全に品質を確かめ、良いものを後工程に流すために、 検査を工程内に持ち込み、不良品はその場で摘出することである。 後工程はお客さんであるという考え方で、後工程には絶対に不良品を流さないということが、 品質を工程で造り込むための基本である。 ![]() すみやかに連絡を取らないと、不良品が続いて発生することになる。 また、不良品の手直しは、不良品を出した工程が手直しすることが絶対に必要である。 ちょっとした不具合だからといって、黙って後工程が手直ししてしまってはいけない。 後工程が手直ししてしまうと、不良品を多く造るもとになるので、 どこまでも不良品を造りだした部署の責任において直さなければならないのである。 | |
3−3 品質は改善の真価 良い品質のものを造ることは、われわれ製造業にとって、何よりも優先する大前提である。
いくら量を多く造っても、それが悪いものでは、お客様は買わないだろうし、 いくら安く作っても金に換わらないものであれば、結局、損をすることになる。 まして自動車の場合、安全性が特に重要視されるから、 忙しいからとか、安くするためにとかの理由で、手をぬいた製品を市場に出すことは、 社会性に反し、会社にとって命取りになりかねない。 つまり、品質を確保することは、作業の中で第一に考えなければならないことであって、 他の理由によって軽視されることは本末転倒もはなはだしいというべきである。 それでは、品質を確保する作業とは、どんな作業を指すのかということを考えてみる。 昔と違って、作業者の勘とか、熟練の程度が少ない分業化された現在の各工程においては、 一般的に決められた作業条件の中で、標準作業をおこなうことが、品質を確保することであると考えてよいであろう。 言いかえれば、必要な品質を確保できるように標準作業が造られているはずである。 また、これだけでは工程がバラツクような場合には、目視やゲージによるチェックも、 一つの工程として標準作業の中に織り込まれていなければならない。 このような環境の中で不良を出すとしたら、 それは標準作業通りに作業をおこなっていないことによるものか、 あるいは、機械設備・型・冶工具などの故障と考えてよいだろう。 前者の場合については、これから考えてみたい。 ときどき「工数低減をおこなったら不良が増えた」とか 「人を減らしすぎたのでそのシワが品質に寄った」という言葉を聞く。 しかし今まで述べたように、これはトヨタ式生産システムの考え方からして本末転倒であり、 絶対に起こってはいけないことである。 現実に起こっている問題を見ると、次の二つに大別できる。 (イ)単位時間の中の仕事が増えたと思い、やらなければならない作業まで省いてしまうか、 あるいは忘れてしまう。 すなわち、ムダの排除ではなく手抜きをやってしまう場合。 (ロ)今まで工数の余裕があったため、中間在庫ややり直し作業が可能で、 表面に出ていなかった品質不良が、工数低減を、やったことによって表面化する場合。 (イ)の場合は、コンベアーラインを使っている組み付け作業などに特によく見られるが、 この間違いは、作業が遅れたり、問題が生じたときにラインを止めないために起こる。 トヨタ式工数低減活動においては、くどいほどラインを止めることを教えている。 新入作業者に対しても、真っ先にラインのとめ方を教えるのがトヨタのやり方である。 ラインを止めることによって、各人の仕事量のアンバランスもわかれば、 ムダ排除の糸口もつかめる。 さらには、作業遅れの原因を根本から治すことも可能である。 単位時間の中で、間に合わないから作業を省いてしまうというのは、 ラインを止めてはいけないという考え方が強すぎるからである。 ラインをとめても、完全なものを後工程に渡すことがより大切なことであることを、 監督者は作業者に徹底しなければならない。 この場合、ラインスピードやタクトにこだわる必要はまったくない。 すなわち「タクトと人数は無関係である」ことを明確にしておくことが大切である。 作業者は自分のペースで必要なことを全部やって、それで一サイクルの仕事が完了する。 もし、このタクトの中で完了しなければ、終わるまでラインを止めればよい。 このタクトの中に、いかに入れるかということは、まったく別の対策であり、 管理・監督者や技術員の仕事である。 例えば、ある作業者が、第一工程から第5工程まで70秒かかり、 タクトが60秒の場合10秒オーバーするとする。 このときオーバーした10秒を途中で切り上げてはいけないことは説明するまでもない。 作業者は普通に作業をして10秒ずつラインを止め、品質の良いものを造ればよい。 各工程のムダを省いたり、歩く距離を縮めたりして、 普通に作業しても60秒で5工程ができるように改善するのは、監督者や技術員の仕事である。 これが出来て初めてラインストップはなくなる。 作業工程の改善をせずにラインストップをなくそうとすれば、 品質にシワが寄るのは当たり前であり、これはトヨタ式生産システムの考え方においては、 厳に戒めなければならないのである。 (ロ)の場合は、人や在庫を減らすことによって、 今までかなりの頻度で不良が発生していたにもかかわらず、根本的な欠陥を解決せずに、 他の方法で内部的に直していたものが、はっきり表面に出てきたのである。 例えば前工程の不良を後工程で直し、十分にフィードバックしてなかったり、 設計上の問題でタップ穴が合わないので、 自工程でタップをたててあわせていたことなどがこれに該当する。 これらをやりくりするために、真の原因はいつまでも放置され、 やりくりのための工数や在庫が原価を上げていくのである。 工数低減の結果、これらの悪さが表面化されたことは改善のチャンスである。 監督者や技術員は一つ一つ関係部署へ不良品を戻し、時には前工程へ出かけて、 その原因を徹底的に追究して、根本的解決をはからなければならない。 このことは、たとえば慢性盲腸炎を冷やして散らすことをやめ、 手術で除去することによって元気な体に戻すことに似ている。 さらに、この考え方は前に説明した機械・設備・型・冶工具などによって生ずる不良を解決する場合にも、 そのままあてはまる。 例えば、設備などの原因で不良が生ずることがわかったら、 すぐラインを止めて不良の原因をたつことが大切である。 設備関係部署に連絡しても、なかなかやってくれないからといって、 自工程内で手直しをしてしまうと、これがいつの間にか正規工程のようになってしまう。 一片の依頼書や一回の電話でアクションが終わりではない。 完全に良品質の製品が出るまでは、根気よく対策する必要がある。 | |
3−4 不良と検査 次になぜ不良品を流してはいけないかということについて考えてみよう。 最終工程である組み立てラインが不良品を流すと、顧客に不良品がわたってしまう可能性が大きい。 これは企業の信用、製品の信頼性に一番関係が深いので、絶対にいけないことである。 しかし、普通は不良品が顧客にまで渡る前に、検査によってそれが発見され手直しされる。 不良製品を絶対に出さないようにという決意が強いほど、検査は厳重になり、手直しも頻発する。 しかし、それでは原価を上げる一方である。 検査工による工程外の検査という仕事は、もっとも付加価値を生まない。 したがって、製造に携わっているものが、それぞれの工程の中で、 不良品は冶具に取り付かないようにしたり(これをポカヨケという)、 ゲージを宛てたりして検査を行い、全数が良品であることを保証しなければならない。 ![]() 工程外の検査や手直しのための人員が増えれば増えるだけ、工場の付加価値の比率が低下し、 原価は上がってしまうであろう。 「この製品は、10回も検査したから、値段が高い」などということは、市場ではまったく通用しない。 このように、付加価値を生まない作業はムダである。 したがって、本来排除すべきものである。 せっかく、直接作業の工程中でムダをはぶいてもき、工数低減をおこなっても、 不良を出せば、これに伴って検査も手直しも工数が増加する。 原価低減という目で見れば差し引きゼロか、下手をすればマイナスとなってしまい、 本来の目的から遠く離れてしまう。 このような理由から、次のように考える。 すなわち、工程外の検査も手直しも作業者としてはムダである。 したがって、できるだけ省きたい。 検査は必要最小限でよく、手直しは不要である。 そして必然的に工数低減ができるのである。 このように、検査、手直し作業をなくすることが出来るような状態にすれば、 大きな工数低減ができるという関係を常に意識して、改善に励むことが非常に重要なことである。 なお、工程内検査については、次のように考えなければならない。 工程内、すなわち、作業者が自分で作ったものが良いかどうか検査することは、絶対に必要である。 これは全数検査をしなければならない。 次工程はお客さんという意識で、悪いものは一つたりとも出さないようにしなければならない。 この場合、検査の方法については、いろいろ工夫することが必要である。 目視やゲージをあてる検査のほかに、「ポカヨケ」も考えなければならない。 また高速自働プレスのようなロット作業をするものについては、50個なり100個をシュート上にため、 最初と最後の各1個を検査し、両方とも良品ならパレットに移す。 後が不良なら、どこから不良が発生し始めたか調べ、これを取り除くとともに、 不良が出ないように手を打たねばならない。 これは一種の全数検査である。 高速だからといって、抜き取り検査しか出来ないと思っていてはいけない。 このように、工程で品質を、造り込むことが大切である。 | |
3−5 検査工の真のねらい 次に検査工による検査作業というものの考え方にふれておこう。
検査工というものは、良品・不良品の判定は仕事であり、チェックの結果を集計して前工程にわたすことで、アクションをとったと考えているように見受けられることがしばしばある。 しかし、これだけで十分とはいえない。 検査員は、なぜこのような不良が起こったかをできるだけその場で解析し、原因を突き止め、これをやめさせるまでを担当するスタッフと考えるべきである。 合格か不合格かのマルバツの採点をおこなう試験官で終わってはいけない。 なぜ間違えたかを説明し、相手に2度と同じ間違いをしないように教える、家庭教師でなければならない。 たとえば、表面的にあらわれた現象が部品の組み付け間違いでも、原因は単に「ボンヤリしていた」だけではない事が多い。 組み付け順に部品が並んでいなかったり、ラインストップボタンや、呼び出しボタンが遠かったり、作業指示情報がみにくかったりなどと、原因はいろいろあるだろう。 これをつきとめ適切な処置をとらせて、はじめて不良は減るのである。 したがって、検査員は不良を放り出すのが仕事の目的ではなく、不良品をゼロにするのが目的でなければならないし、これによって評価を受けなければならない。 | |
3−6 ポカヨケ 工程の中で、よい品質を作り込んでいくためには、作業者がどんな点をチェックするのか、 どの箇所を測定するのか、刃具はいつ交換すればようのかなどを考えなければならない。 そこで、このような問題は、冶工具・取付具などを工夫して、前工程の製品のチェックが、 自然におこなえるようにする。 すなわち、ポカヨケを工程内に取り込んで、不良発見をおこなうのである。 そして、ポカヨケを標準化して、作業者が交代した場合にも、少ない工数で、 安定した品質のものが出来るようにすることが大切である。 作業をおこないながら測定したり、項目にしたがってチェックしたりすれば、 いくら気を配っていても、ついうっかり失敗する事がある。 ![]() これが「ポカヨケ」である。 「ポカヨケ」をもう少し具体的に説明すると、 (イ)作業ミスがあれば、品物が冶具に取り付かない仕組み。 (ロ)品物に不具合があれば、機械が加工を始めない仕組み。 (ハ)作業ミスがあれば、機械が加工を始めない仕組み。 (ニ)作業ミス、動作ミスを自然に修正して、加工を進める仕組み。 (ホ)前工程の不具合を後工程で調べて、不良を突き止める仕組み。 (ヘ)作業忘れがあれば、次の工程が始まらない仕組み。 その他の仕組みが考えられる。 このポカヨケの方法として次のような方式が考えられる。 @標識方式・・・ランプをつける、色別で見やすくするなどして、目で見て発見しやすくする方法。 A冶具方式・・・異品が取付かない、取付ミスのとき動作しないようにするなど、冶具を工夫する方法。 B自働化方式・・加工途中で不具合がおきたら、機械を止める方式、これは「ポカヨケ」に入れないこともある。 ポカヨケは、品質を工程で造り込むために、非常に重要なことである。 そして、不具合をゼロにするのがネライである。 このネライを達成するために、前述のごとき方法を考えるのが、 ポカヨケを設ける場合は、もっともおさえやすいところを、 そして、もっとも損失の少ないところを見つける事が大切である。 |