第4節 かんばんのルール

すべての道具というものは、それが良い道具であればあるほど生かして使えば、
目的を達成するための効果的な武器となるが、これを誤って使えば、かえって目的達成を阻害する凶器と化すものである。

作業現場を効率的に管理するための道具であるかんばんについても、まったく同じことがいえる。

この節ではかんばんを運用するための前提条件、すなわち、かんばんのルールを解説する。

4−1 第1のルール:不良品は後工程へ送らない

不良品を造ることは、売れないもののために、資材・設備・労力を投入するということである。
これは居候製造活動のさいたるものであって、企業の目的とする原価低減に反する最大の物である。
そこで、不良品というものは、これが発見されたら2度と製造されないように、すべてに優先して再発防止の対策をうたなければならないものである。

この不良撲滅の活動を、徹底的に実施するために「不良を後工程に送らない」という第1のルールが重要なのである。

その理由は、第1のルールを守れば、

(イ)不良品を製造した工程が、不良品の発生をすぐ発見できる。
(ロ)そのまま放置しておくと、後工程が止まったり、不良品が自工程にたまったりして、すぐその工程の問題がクローズアップされるので、管理・監督者が一致して再発防止の対策をせざるをえなくなるからである。

そこで、このルールを確実に実施するためには、不良品がでたら、自動的に機械が、または、 作業が止まってしまうようにしておくことである。
ここに自働化の考え方が登場してくる。

かんばんを効果的に運用するためには、第1のルールを守らなければならない。
そのためには不良品が後工程に決して送られないことを保証する、この自働化にたいして、最大の努力をはらうようにしなければならない。

4−2 第2のルール : 後工程がとりにくる

 第2のルールは、必要な時期に、必要な量だけ、後工程がひきとりにくるということである。

 必要でもないときに、必要以上に物を造り、後工程に供給することは、いろいろな面で損失を生み出すことになる。
すなわち、作業者に余分に残業までもやらせてしまう損失、余分な在庫を寝かせるために生ずるいろいろな損失、さらに設備は余力があるのに、それがわからなくなって増設してしまう損失、その反面、ネックになっている設備も、はっきりつかめないために、対策が手遅れになってしまう損失、そして、最大の損失としては、必要でないものを造るために、必要なものが造れないということが生じることである。


 このような損失をなくすために、第2のルールはきわめて重要である。
このルールが確実に守られるためには、どうしたらよいかを次に説明する。

 ここで問題になることは、「不良品は後工程に流さない」という第1のルールを守れば、自工程で発生する不良品は発見できる。
したがって、他から情報を得る必要がなく、必要な品質のものを供給することができる。
これに対し、後工程に必要な時期と量は、本来、自分の工程ではつかむことはできないということである。
つまり、他からそのような情報が与えられて、初めてわかるものだということである。

 したがって、それぞれの工程にこの情報を与えることが必要になり、いわゆる仕掛係が登場し、仕掛計画と称するものがこの情報として作られ、配布されることになる。

 仕掛計画は当然のこととして、設備の稼働率とか不良率とかの種々の要素について、一つの前提をたてて成り立っているのであるが、現実の生産現場がこの前提どおりに動かないことは、すでに説明したとおりである。

 しかし、このような予想と現実のくい違いに、仕掛計画の変更が細かく、しかもタイムリーに対応できないのである。

 そこで、どうしたらうまく生産・納入指示ができるかということが、どこの生産現場でも問題となる。
そして、役に立たない情報がはんらんすることになり、居候が現場にゴロゴロ現れるということになってしまうのである。


 ここで、「後工程に供給する」という考え方をかえて、必要な時期に、必要な量だけ、後工程が前工程にとりにくる、簡単に言えば、「後工程ひきとり」ということにしたらどうだろうか。

 最終工程である車両組立から、最初の工程である材料出庫までのすべての工程が、かならず、必要な時期に、必要な量だけひきとるということにすれば、どの工程も、後工程へ供給しなければならない時期と量についての情報を、何も他から得る必要ななくなってしまう。

 「供給」という考え方を、「ひきとり」という考え方に逆転することによって、一挙に難問解決の方法を見つけだすことができるわけである。
ここから「後工程がとりにくる」という第2のルールが固まる。そこで、後工程が勝手に気のむくままにとりにこないように、ルールを具体化することが必要になる。
 「かんばんなしにとりにきてはいけない」
 「かんばんの枚数以上にひきとってはいけない」
 「現物には、かならずかんばんをつける」
というようなかんばんを運用する場合の大原則は、この第2のルールを後工程が間違いなく守るために必要なことなのである。

4−3 第3のルール : 後工程がひきとった量だけ生産

 第2のルールの延長として登場する「後工程がひきとった量だけ生産する」という第3のルールの重要性は、前項の検討を通じて十分理解できていると思う。

 もちろん、自工程の在庫は最小限におさえることが条件となる。そのためには、「かんばんの枚数以上に生産してはいけない」、「かんばんの出た順序に生産する」、このような運用の原則を守って、第3のルールは、初めてその効力を発揮するのである。

 さらに重要なことは、この第2、第3のルールを遵守することによって、当社のすべての生産工程が、あたかも、1本のコンベアで結びつけられたのと同じ効果を発揮する。つまり、同期化が成立するということである。

 コンベヤーラインの導入が、作業の標準化やコスト・ダウンに、いかに偉大な力を示すかを考えた場合、この同期化の持っている非常に大きな意義を十分理解することができる。

4−4 第4のルール : 生産を平均化する

 第3のルールを守るためには、すべての工程が必要な時期に、必要な量だけ、生産できるように、設備や人を保有することが必要になる。
その場合、もしも後工程が時期と量について、バラついた形でひきとれば、前工程は人や設備に余力がなければ対応できなくなり、前工程になればなるほど余力を必要とすることになる。

 しかし、いうまでもなく、このような居候のはんらんを、けっして認めることはできない。
そうかといって、あまり余力がない前工程が、後工程に対応しようとすれば、余力のある時期に先行生産をすることが必要となる。
しかし、このような第3のルールに対する違反行為、排除しなければならない。
では、このような居候を排除するにはどうすべきなのだろうか。


 答えは簡単である。
すなわち、生産のバラツキをなくせばよいのである。
ここに「生産を平均化する」という第4のルールが、できるだけ安く造るためには、どうしても必要なものとして登場する。

 後工程のバラツキが、前工程へ大きなバラツキに拡大されて、はねかえっていくことを考えた場合、後工程の生産の平均化に対する責任は大きい。
特に第2・第3のルールを通じて、同期化が徹底している生産工程の場合、最終組立工程の生産の平均化は至上命令である。

 現在、当社では電算機を利用して、いろいろな要素を考慮しながら可能な限り、あらゆる角度からの平均化をはかった生産計画を作成しているのも、このような理由からである。
将来、フルチョイスの拡大を通じて、完成車両の多様化が進めば進むほど、平均化達成の必要性は高まることになるであろう。

 ここで注意しなければならないことは、多様化が進展すればするほど、平均化は困難になっていくということである。
したがって、多様化に対応しながら平均化をつらぬくことは、生産現場におけるこれからの最大の課題である。


 このため、設備面の対策として重要なことは、汎用性を加味した設備の専用化である。
たとえば、カローラ全体の生産計画ならば、月単位で確定的な生産計画をたてられるから、これを可動日で割ることにより、日当たり生産台数を平均化することができる。
しかし、セダンとクーペに分けた場合は、具体的な顧客の注文に応じて生産せざるをえないから、日当たり台数が、旬単位で変動することは避けえないであろう。
同じようなことは、エンジン(1,200cc、1,400cc、高速タイプ)についてもいえよう。
このような場合、もし最終組立ラインがセダン専用ラインとクーペ専用ラインに分かれていれば、生産の平均化はきわめて困難になる。

 ところが、もしもこのラインがセダンもクーペも組み立てうるラインになっていれば、平均化が可能になる。

 このように考えてみると、コスト・ダウンの最大の武器である専用設備による大量生産は、もちろん、徹底的に進めなければならないが、それを単純に進めるのではなく、量産効果を実質的に妨げないように知恵を働かせながら(つまり、最小限度の設備・治具をつけ加えることにより)、上の例のような、汎用性を持った専用生産工程を作る努力が、より一層重要なのである。

 このような考慮を、すべての工程に加えることによって、われわれは多様化と平均化との調和をとることができ、顧客の注文に、よりタイムリーに対応することが可能となる。
将来の市場の多様化の拡大を考えて、われわれは、従来以上にこの考え方を推進しなければならない。

 生産の平均化という第4のルールは、このような設備面への配慮を含めて理解することが必要である。

4−5 第5のルール : かんばんは微調整の手段である

 かんばんの具体的な内容については、すでに第3節で述べたが、その一つの表現としては、「自動指示装置であり、作業者に対する作業指示の情報である」と説明した。

 したがって、かんばんを採用した場合には、別に、仕掛計画表・運搬計画表のような情報は提供されず、かんばんだけが生産や運搬指示のための情報となり、作業者はかんばんだけを頼りに作業をするのである。

 だから、生産の平均化が特に重要なのである。
生産の平均化がおこなわれていないと、どんな問題が生じるだろうか。
たとえば、あるプレス部品は、型段取りを開始してから、部品がプレスされて後工程に供給されるまでに、2日かかるものとする。
そこで、プレス部品の在庫が2.5日以下になったら、仕掛け(型段取り)を開始せよ、という指示が出るように、かんばんを設定したとする。

 ところが、後工程の生産が倍増したとすると、2.5日の在庫分は1.25日で後工程にひきとられてしまうが、プレス工程では部品ができていないから、
2日−1.25日=0.75日
この0.75日間は完全な欠品状態となる。
だからといって、このような場合にも対応できるようにと、倍の5日分も在庫したのでは、生産量が普通の時には、不必要な在庫をいつも余分に持つことになるから、このようなことは許されない。
そうかといって「後工程がたくさんひきとっていかないかな」と前工程が心配したり、「今回は早めに仕掛けてください」と、かんばん以外の特別な情報が送られてきたりしては、現場は混乱してしまう。
かんばんを運用する場合に、「生産の平均化」がいかに重要かということについて、このような検討を通じて、われわれは一層理解を深めることができる。

 上の例でもわかるように、かんばんは生産の微調整にしか対応できないものであり、かんばんは微調整の手段として使用してこそ、初めてその偉力を発揮できるのである。

 また、すでに第2節で、「物事は決めたとおりには動かない。
したがって、そこで発生する誤差は、別の方法で管理しなければならない。
ここにかんばんという考え方が結びついた」ことを説明した。
このことからも、かんばんが微調整の手段であることは、十分理解できたと思う。
つまり、「生産の平均化」と物事を決め、そのとおりに動かなくて発生した誤差を、微調整に役立つかんばんで管理するわけで、このように第4、第5のルールは結びつけて理解することが必要である。

 しかし、どうしても需要の変動が避けられないとすれば、生産の変動も、われわれは覚悟しなければならない。
つまり、生産の平均化に努力するとともに、生産の変動にも対処できるような方法を考えなければかんばんは死んでしまう。
生産の変動にも対処しながら、かんばんを微調整の手段として、生かし続けるために重要なことは、かんばんのメンテナンスを忘れないことである。
かんばんのみならず、すべて現場の標準作業は、ある生産量を前提に成り立っているものであり、生産量のレベルが変われば、それに応じて改訂しなければならない。
したがって、現場においては、年間計画や月度計画を通じて、絶えず生産量の動きに関心をはらい、その変動に応じてかんばんの枚数や内容に点検を加え、最小の在庫で生産して後工程に供給できるよう、かんばんを設定していくことが大切である。

4−6 第6のルール : 工程を安定化・合理化する

 第4のルールで、われわれは後工程への供給を保証しながら、できるだけ安く造るという目的を達成するために、「生産の平均化」というルールを知ったが、ここで忘れてはならないことは、工程の安定化・合理化という第6のルールである。

 「不良品を後工程へ送らない」という第1のルールの検討を通じて、われわれは「自働化」の重要性を理解したが、この不良の意味を単に不良部品に限らず、「不良作業」にまで拡大して考えれば、第6のルールは一層理解しやすくなる。
つまり、不良作業とは、作業の標準化・合理化が十分おこなわれていないために、作業方法や作業時間にムダ・ムラ・ムリが生ずることであり、これがひいては、不良部品の生産に結びつくのである。
このような不良を解消しなければ、後工程に対する供給を保証しながら、できるだけ安く造ることはできない。
工程の安定化・合理化への努力を通じて、自働化の実現をはかっていくことが必要であり、「生産の平均化」もこのような裏付けがあって初めてその価値を十分に発揮できるのである。

 以上述べた6つのルールは、いずれも、これを守っていくには大変な努力が必要である。
しかし、このようなルールを守らずに、かんばんを導入したとしても、けっしてかんばんは効果を発揮しないし、原価低減活動も推進できない。
原価低減を進めるための現場管理の道具として、かんばんの効果を認める限りは、どんな困難をも克服して、ルールを守っていくことが必要である。

 これまで、かんばんの基本的な考え方、および内容などについて説明してきた。
かんばんほど実行してみないと、その本質が本当に理解できないものはない。

 かんばんは、現場を本当に動かしている人たちの努力が生み出した「知恵の結晶」である。
「改善は永遠にして無限である」と言われる。
かんばんの活用も現状維持にとどまらず、創意と努力をもってさらに発展させるのが、かんばんを動かす人たちの課題であろう。
そして、知恵と工夫が、こんこんとわきでてくるようなすばらしい職場を皆の力で作りだすことが大切である。