第3節 かんばんとは

3−1かんばんの機能

かんばんは作業指示の情報である。これがかんばんの第一機能である。
つまり、「何を、いつ、どれだけ、どんな方法で生産し、運搬したらよいか」 という情報が自動的に出される自動指示装置である。
生産量・時期・方法・順序あるいは運搬量・運搬時期・運搬先・置場所・運搬具、 そして容器などが、かんばんさえ見ればすべてわかるのである。

一般に企業では、「何を、いつ、どれだけ」といった内容の情報は、仕掛計画表、 運搬計画表、生産指示書、納入指示票などの帳票の形で仕掛係が作り、 現場に流されるわけであるが、すでに述べたように、これではどうしても居候がゴロゴロ登場することになる。
また、「生産方法」「運搬先、置場所」などの情報は、作業標準書などとして現場の机の片隅にしまわれているが、 作業者にはなかなか守られず、いわゆる作業不良を作り出す一つの原因ともなっている。

したがって、@いつでも標準作業ができる、A現場の実態に即した指示が自動的に出る。
B仕掛係の余分な仕事と紙料(資料ではない)のはんらんを防ぐ、というようなことをねらって、 かんばんが生まれたのである。
かんばんが使用されるかぎり、上で述べたようなむだな紙(資)料は、不要になっていかなければならない。

かんばんの第二の機能は、かならず現物とともに動くことである。
「かんばんは目で見る管理の道具である」ということは、すでに述べたが、これを具体的に表現するためには、 第一の機能とともにこの第二の機能が重要である。
現物とかんばんをかならず一致させておけば、@余分な生産をすることができない、 A生産の優先順序がわかる(かんばんのたまったものが急ぐもの) B現物の管理が簡単にできる、などのことが可能になる。

以上二つの機能どおりに、かんばんが運用されれば、われわれの目的とする目で見る管理が可能となる。
そして、管理、監督者は目で見ることによって、現場を管理するための、 もっとも必要なつぎのことを知ることができるのである。

@標準作業の遵守状況
A自工程のの能力把握
B自工程の在庫状況
C自工程の人員配置の適性度
D後工程の作業の進捗状況
E後工程の緊急度(自工程の作業の優先度)

程度の差こそあれ、この二つの機能を備え、それさえ見れば作業者は標準作業ができ、 管理者は最良の管理ができるようにした表示物であれば、すべてかんばんであると、 われわれは考えることができる。

3−2 こんなものも「かんばん」

普通かんばんというと、われわれは長方形をしたビニール袋入りの、外注部品納入指示用かんばんだとか、 内製工程のなかでよく見かける鉄板製のかんばんだとかを思い浮かべる。
しかし、前記の機能を備えた表示物は、すべてかんばんであると考えてみると 、次のようなものもかんばんの一種であることがわかる。

(イ)台車もかんばん

本社工場では、総組立ラインにおけるエンジンやミッションなどのユニット・アッシーの引き取りは、 一定の量しか積めない、きまった台車を利用しておこなっているが、 この台車は、かんばんの役目を果たしている。
すなわち、総組立ライン・サイドのユニットの在庫が基準量(3〜5台)になったら、 それぞれのユニットを車両に取り付けている部署(たとえばエンジンを搭載している部署)が、 空き台車を持って、組付ラインへいき、空き台車と交換に、必要なユニットの積まれた台車を引き取ってくるのである。

この場合、かんばんはその台車についていないが、 @引取りのルールを決めること、A台車数を規制することなどによって、 かんばんを使用するのと同じ効果があげられる。
たとえば、ユニットの組付けラインでは、必要以上に作りたくても空き台車がなければ完成したユニットの置場所がないので、 このラインは止まるし(フル・ワークの考え方)、 総組立ラインも、台車上にある決まった在庫以上に余分な在庫を持つことはできないようになっている。
つまり、かんばんを運用するのと同じことを、台車その物に対しておこなうことによって、 台車がかんばんの役目をしているのである。

また、機械工場の中には、内製部品の工程間の運搬がかんばんなしでおこなわれている場合がある。
この場合も前例と同じように、台車がかんばんの変わりをしており、かんばんそのものはなくても、 かんばんによって生産や運搬が行われていると、いうことがいえる。

(ロ)指定席もかんばんである。

われわれの作業現場では、運搬の合理化の武器として、チェイン・コンベアがたくさん動いている。
これには部品を吊り下げて塗装したり、組付用の部品をラインサイドへ供給したりしている。

このチェイン・コンベアを利用して、多種の部品を運搬する場合、 「いつ、どの部品を、どれだけつりさげたらよいか」を間違いなくやるためには、 チェイン・コンベアの都合のよいところに、部品を指定する表示物を適当な間隔に吊り下げておき、 表示してある部品しかつらないようにすれば(これを指定席という)、 コンベアと一緒に指定席がぐるぐる回って、必要な部品の円滑な引取りと、供給ができる。

この指定席は、前記の機能を備えたかんばんの一種であって、このようなかんばんの使用により、 われわれはきわめて有効にかんばんを活用できるのである。

3−3 こんなものにも「かんばん」が使える

前項では、かんばんその物はなくても、かんばんがいろいろな形で存在することを知った。
続いてこの項では、「かんばんはこんなものを管理するのにも使える」ということを一例をあげて説明する。

プロペラシャフトには、バランス・ウエイトを取り付けている。
このバランス・ウエイトは5種類あって、プロペラシャフトの回転ムラの程度により、 その中から必要なものを選び出して取り付けるのであるが、もちろん、ムラがなければ1個も取り付けなくってよいし、 場合によっては何個も取り付けなければならない。
そのために普通の部品のように生産計画があればその使用量がわかる、というような代物ではない。

したがって、このような部品は、よほどうまく管理しないと、一方ですぐ特急品が出る反面、 他方では不要な在庫がどんどんたまってしまう。
そのため仕掛計画や運搬計画も頻繁に変更せざるをえなくなり、 結局、バランス・ウエイトの生産→運搬→使用のすべての工程において、 居候と紙(資)料が続々生産されるハメに陥ることになる。
事実、この工程においては、かんばんが導入されるまでは、いろいろな苦労をしてみたが、 結局、うまくいかず「こんな部品の場合はしょうがない」とあきらめていたのである。

この全工程をうまく管理するためには、まづ第一に、各工程にある5種類の部品の在庫数を、いつも正確に把握しておくこと、 次に、この在庫の実態を常に反映させて、特急や過剰在庫が生じないような仕掛や運搬をすることが必要である。
そして、このような目的を達成するために、この工程にかんばんが導入された。

その結果、従来あった問題点は解消され、余分な死(資)料なしで、仕掛・運搬・在庫管理はスムーズにおこなえるようになった。
すなわち、@現物にかんばんを取り付けることによって、現物がいつも正確に確認できるようになった、 Aかんばんが工程間をグルグル回ることによって、いつも必要な順序で、仕掛や運搬ができるようになった、 Bその結果、5種類の在庫量がよりコンスタントに保てるようになり、結局、在庫量を大幅に減少することができたのである。

この例が貴重なのは、往々にして「かんばんは、毎日安定して使用される部品の管理にしか使えない」と考える人がいるからである。
確かにかんばんのルールにおいても、「生産の安定化・平均化」は大きな条件になっているが、 だからといって「引取りの安定した部品でないと、かんばんが使えない」ということにはならない。

つまり、かんばんは決して使用量の安定した共通部品、汎用部品のみの管理の道具ではなく、 使用量の不安定な、一見かんばんではとても管理できないように見える特殊専用部品の管理にも、 有効な道具なのだということが、「かんばんの精神」を正しく理解していればよくわかるであろう。
また、このような部品の管理に使用してみてこそ、かんばんの本当のよさを知ることができるというものである。

以上の3つの例から、われわれが知恵を働かせれば、かんばんはいろいろな用途に、いろいろな形で使用することができ、 現場管理のレベルアップに大きな力を発揮することがわかる。
その現場のレベルの高さは、かんばんの利用の程度によってもわかる、といわれるゆえんである。
この意味からすれば、かんばんは現場の知恵の結晶であり、だからこそ、 その具体的内容は変化・発展をとげていかなければならず、いつまでも同じかんばんを使っているようでは、 その現場は努力が不充分といえるのではないだろうか。
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